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こばなし
(Trick and trick after sotry)
蜜柑は唇を離し、回していた腕も解くと、彼女の着ている服がふわりと舞い、くるりと自身に背を向けた。背を向けているので彼女が今、どんな表情をしているのか分からない。いつもと違う蜜柑の行為に疑問を感じていたし、彼女の表情を見たかったから、肩に手をかけ、無理矢理、此方に身体をむかせる。
だが、蜜柑は手で顔を隠し、表情を見させないようにしている。…そういう事をすると、尚更どんな表情をしているか気になって仕方ない。蜜柑の両手首を掴み、顔から離させようとする。蜜柑は必死に抵抗しようとしたが、そこは男女の力の差。いとも簡単に蜜柑の顔から手が離れた。
彼女は最後の抵抗なのか、顔を俯かせてしまった。顔を上げさせようにも蜜柑の両手首を掴んでいるため、あげさせられない。かといって、顔をあげさせようと手首を離したら、また顔を隠すだろう。いたちごっこにしかならない。となると、言葉で誘導するしかない。
「みかん、顔あげろ」
「い、いやや」
断固として顔を上げない。もともと自分は短気な性分なので、蜜柑が顔を上げるまで待つなどもっての他だ。
さて、どうするかと考える。ふと、目に入ったのは蜜柑が被っているとんがり帽子。そうだ、そもそも今日はハロウィンではないか。イベントを有効活用しなくてどうする。
先ほど蜜柑がやった様に、自身の顔を蜜柑の顔へと近づける。蜜柑は何をされるか予想ついたのか、俯きながら顔を横に逸らす。棗の目の前には蜜柑の耳。自分から態々向けてくれるとは。そのまま顔を近づけ、彼女に耳打ちをする。
「Trick or treat」
とたんに、微かに見える蜜柑の頬が濃く赤くなった。彼女が身に纏っている服のポケットにお菓子でも入ってるのだろうか。それとも逃げる為だろうか。蜜柑は手首を振り切ろうとしている。だが、そんなこと許す訳が無い。
先ほどよりも少し強めに彼女の手首を握る。
「あの棗…ウチのポケットに、キャンディはいっとるから、それを…」
「お前が出せよ」
「なっ…!?」
彼女は目を見開いて、此方を向いた。やっと、蜜柑と目があった。彼女の顔は、一面真っ赤に染まっていて、見ていてとても面白い。振り切ることを諦めたのか、蜜柑はまた顔を俯かせた。先ほど、蜜柑は自身が答えを出さなかったら、悪戯をした。だったら。
(俺もしていいよな)
「出さないんだったら、悪戯だな」
そう言って、腰を屈ませ顔を横に向けると桜色の唇に噛み付くようにキスをした。蜜柑が逃げないようにと、片方手首を離して、背中に手を回す。蜜柑は空いた手で、ドンドンと胸板を叩くがそんな事気にも留めないで行為を続ける。角度を変えて、繰り返しキスをして、彼女が唇を僅かに開けると、深く絡めあわせ、ハロウィンと言う行事も捨てたもんじゃないなと思惟しつつ、彼女から唇を離した。
悪戯には悪戯で制裁
(お前の負けだ)
確か今日は年に一度にやってくるハロウィンだ。行事好きの学園でも、やはりそれ相応のイベントがある。自身は行事などに積極的に参加する性格(タチ)では無いので、今日は大人しく部屋に居るつもりだった。だった筈だ。
しかし、現実はそう甘くなかった。
中等部の生徒も高等部の生徒も、初等部に戻ったかの様にお菓子に群がっていく所為か、自身の元にも来訪してきた(勿論、来訪者には睥睨したが)。蜜柑を筆頭にクラスメイトも先輩や後輩の元にお菓子を貰いに行っている。そこまでして、菓子が欲しいのかと、思わず呆れ返ってしまう。
部屋に残っていると絶え間なく、人々が来訪してくるので適当に学園内を散策する。ハロウィンの影響か生徒達はこぞって仮装をしている。私服で学園内を歩いていると逆に目立つくらいに。…つくづく、呆れ返る。馬鹿馬鹿しくて仕方ない。
適当なベンチを見つけ、着座する。学園の外れであるお陰で人通りが少ない。安堵のため息を吐いたのも束の間、後ろからドスンと鈍い音がした。振り返ってみれば、そこには魔女らしき仮装をした蜜柑がしりもちをついていた。
「アタタタ…」
「お前、何してんだよ」
「ちょっと、木の上に座ってたら、落ちてしもうて…」
ベンチから立ち上がり、手を差し出してやる。蜜柑は、はにかみながら手を出した。蜜柑は立ち上がると、腰を打ったのか何度も摩っている。
彼女の恰好はいかにも“魔女”っぽかった。黒いマントに黒い三角帽子。オレンジと黒を基調として彼女は彩られている。普段、こういった恰好はしない所為もあると思うが、似合っていると深くにも思ってしまった。
蜜柑は痛みが引いたのか、手を摩るのを辞めると、一歩二歩と近づいてきた。お互いそんなに離れていない所為か直ぐに2人の距離は縮み、今にも身体と身体が触れ合う様な距離に居る。
(どういう風の吹き回しだ…?)
先ほどのはにかんだ笑顔とは一風変わって、今は妖艶な笑みを浮かべている。
「なつめ、」
「…何だよ」
彼女の口から発せられる言葉も何処となく甘美を持ち合わせている。人差し指を立てながら蜜柑の手段々と近づいて来て、丁度自身の唇に触れるか触れないで止まった。
今までに見たことが無い蜜柑の行動に、動悸がする。悟られないように、動揺している事を隠す。
すると、目の前の蜜柑の口が開いた。
「Trick or treat?」
か細い声で、聞こえるか聞こえないか位の大きさで彼女は呟いた。
彼女に応えようとするが、何かが喉につっかえて出てこない。僅かに口を開くと、蜜柑は指を離し首に手を回した。目の前に蜜柑の顔があり、少し顔を傾けただけで唇と唇が触れ合ってしまいそうだ。
「応えないんやら悪戯やね」
そう言うなり、顔を一気に近づけキスをしてきた。蜜柑からのキスは何回かあるが、してくるのは大半が頬で唇にしたとしても、一瞬の間にキスが終わる。だが、一瞬では離れず、且つ、深く深く角度を変えながらしてくる。
閉じていた目を開ければ、蜜柑は目を閉じていたが、頬が赤くなってはいない。今、自分がしている行為を
恥ずかしいと思っていないのか。
いつもの蜜柑とは違うと感じつつも、再び目を閉じ、彼女に手を回し、“応えた”。
Trick and trick.
(さぁ次は自分の番だ)
蜜柑が手を引っ張りながら、自身を無理矢理、"此処"へと連れて来た。見るからに蜜柑が好きそうな雰囲気を醸し出してる。蜜柑と同伴してなかったら、近づきもしないような"店"だ。ディスプレイには、フルーツが沢山盛られているパフェやら、気味が悪い色をしているジュースやら―――。見てるだけで、気持ち悪くなってくる。知らず知らずの内に、眉間に皺がよる。そんな自己の様相を見てか、蜜柑の表情が曇る。
「あっ…棗…嫌だった?」
今にも店内に入りそうな勢いだったのに、手を引くのをやめ、自身の様子をチラチラと窺っている。何時もは強情な癖して、変な所で臆病な彼女が愉快で可愛らしいと思う。彼女の手を握り締め、店のドアを開ける。チリンチリンと、鈴が鳴る。
「なつめっ!」
「何だよ、入るんだろ」
そう言ってやれば、蜜柑は満面に笑みをたたえた。全く、どうしてこんなにも蜜柑には甘いのかと自分で、自問自答したくなるが、答は分かってる。
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適当なテーブルへと、案内され、メニューが渡された。自身は、こんなメニューの中から頼む気は更々無いので、蜜柑だけが何かを頼んだ。店員にメニューの名前を伝えていたのは聞こえたが、不可思議な名前が出てきて、頼んだのは彼女の事だからケーキあたりでも頼んだのだろうと推測した。
だが、今、現在、蜜柑と自身の目の前には2人で飲むぐらいの大きさのグラスが置いてある。しかも、ご丁寧にストローは2本ささっている。
「…どういう事だ?」
「…一回やってみたかったんよ、二人で一つのジュース飲むの、」
頬を真っ赤に染め、舌を出しながら話す。そして、目の前にある"それ"をストローで啜った。透明だったストローが黄色へと映り変わる。色からして、檸檬味なのだろうか。片方は黄色に染まっており、片方は透明なまま。実際の所、そんな行為は羞恥だと思うが、…断れない。実際を言うと、自分もしたかったのかもしれないが、断れない原因は、やはり"彼女の頼み"でもあるからだ。
まるで、何処かの姫と家来みたいだと苦笑しながらも、ストローを口に銜えた。
姫様彼女。
(結局は適わないって事だ)