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こばなし
蜜柑が手を引っ張りながら、自身を無理矢理、"此処"へと連れて来た。見るからに蜜柑が好きそうな雰囲気を醸し出してる。蜜柑と同伴してなかったら、近づきもしないような"店"だ。ディスプレイには、フルーツが沢山盛られているパフェやら、気味が悪い色をしているジュースやら―――。見てるだけで、気持ち悪くなってくる。知らず知らずの内に、眉間に皺がよる。そんな自己の様相を見てか、蜜柑の表情が曇る。
「あっ…棗…嫌だった?」
今にも店内に入りそうな勢いだったのに、手を引くのをやめ、自身の様子をチラチラと窺っている。何時もは強情な癖して、変な所で臆病な彼女が愉快で可愛らしいと思う。彼女の手を握り締め、店のドアを開ける。チリンチリンと、鈴が鳴る。
「なつめっ!」
「何だよ、入るんだろ」
そう言ってやれば、蜜柑は満面に笑みをたたえた。全く、どうしてこんなにも蜜柑には甘いのかと自分で、自問自答したくなるが、答は分かってる。
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適当なテーブルへと、案内され、メニューが渡された。自身は、こんなメニューの中から頼む気は更々無いので、蜜柑だけが何かを頼んだ。店員にメニューの名前を伝えていたのは聞こえたが、不可思議な名前が出てきて、頼んだのは彼女の事だからケーキあたりでも頼んだのだろうと推測した。
だが、今、現在、蜜柑と自身の目の前には2人で飲むぐらいの大きさのグラスが置いてある。しかも、ご丁寧にストローは2本ささっている。
「…どういう事だ?」
「…一回やってみたかったんよ、二人で一つのジュース飲むの、」
頬を真っ赤に染め、舌を出しながら話す。そして、目の前にある"それ"をストローで啜った。透明だったストローが黄色へと映り変わる。色からして、檸檬味なのだろうか。片方は黄色に染まっており、片方は透明なまま。実際の所、そんな行為は羞恥だと思うが、…断れない。実際を言うと、自分もしたかったのかもしれないが、断れない原因は、やはり"彼女の頼み"でもあるからだ。
まるで、何処かの姫と家来みたいだと苦笑しながらも、ストローを口に銜えた。
姫様彼女。
(結局は適わないって事だ)