コンコンと部屋をノックする。この部屋に居る事は確かなのだけれど、一度、ノック無しに入り、蜜柑に叱咤されたので、それ以降はちゃんとノックする様に努めている。
だが、ノックはしたのは良いものの、返事が返ってこない。寝ているのかと疑念するが、それは無いだろうと顔を左右に振り、もう一度ノックをする。すると、中から、独特の甲高い声が耳に届いた。
「棗やろ?今出るから、ちょっと待っててなー」
廊下まで聞こえる彼女の急ぎ足の足音。女なんだから、もう少し、大人しく行動したらどうだと内心で毒気づく。刹那、彼女の部屋のドアが開く。彼女の容姿を見た瞬間、今まで思惟してたのが壊された。
新年で、学園から配給された着物を目を疑うくらいに艶やかに着こなしており、髪の毛も1つにアップされて、華美にまとめられている。一言で言うならば、艶麗な容姿だった。
「どや、似合う??」
くるりと回って、着物を見せて、首をこてんと曲げさせて訊いてくる。新年早々、彼女は何をしてくれるんだと思わず、ため息が口から漏れ出した。
(……天然すぎるにも程があるだろう…)
新年から理性を抑えるのに必死のこっちの身も考えて欲しい。
「何や…似合わなかったん…?」
ため息を吐いた所為で、にこやかに微笑んでいた表情が一挙に悄然とした表情になる。新年明けたばかり、こんな表情させたくは無いというのに。それに、今日は―――。
彼女セットした髪の毛を崩さないように、ぽんぽんと頭を撫でる。行き成りの事で、悄然とした表情をしていたのに、今では複雑な表情をしている。そして、彼女にしか滅多に見せない笑みをする。
「…似合ってる」
「ホンマッ!?」
「嘘言って、どうすんだよ」
一言、似合ってると言っただけで、また彼女は相好を崩した。今年も彼女の柔らかい表情を見れて、多幸だと感じられる。だが、また、彼女は表情を変えた。
だが、先ほどとは違い、今は、もどかしくしている。無駄にチラチラと此方を見たり、手をもじもじといじったり。何の為にそうしているか、直ぐ分かり、このまま言わなくて良いかと思うが、流石に可哀想だ。じっと彼女の瞳を見つめる。
「……誕生日、…おめでとう」
「っうん!ありがとなっ!」
着物を着ているにも関わらず、抱きついてくる。余りにも突飛過ぎたので、彼女を受け止めるために、多少よろけてしまい、二、三歩後ろへ下がる。ふわりと彼女の髪の毛から芳香が匂った。今年もいい年になりそうだと、衷心から思う。
そして、昨年から…というより、昨日、思いついた、彼女へのプレゼントを渡す。
「今年のプレゼントだが、……」
「何何っ?何くれるんっ!?!?」
燦爛とした瞳で見上げてくる。そんな彼女に苦笑し、抱きしめたまま、唇と唇が触れ合う寸前まで、近づけ―――。
「俺の苗字をやるよ」
彼女が目を見開いたのと同時に、桃色に染められた唇に口付けをした。
Vorresti sposarmi?
(こんなプロポーズはどうだ?)
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