いつものリボンを外して、珍しく2つ結びにして。
最近買ったばかりのワンピースを着て。
足元にはいつも履かないような白いサンダルを履いて。
鏡を見る。
(よし、大丈夫っ…!)
満面の笑みを鏡に向けて、部屋を出る。
今日は久しぶりの2人きりのデートの日。ドキドキしてわくわくして堪らない。家を出る際に、レンの部屋をチラリと盗み見る。ドアは閉まったままで、室内で何をしているか分からない。今、ドアを開けてレンの恰好を見てみたい。だけど、…我慢する。此処で見てしまったら、何だかつまらない。楽しみは後でとっておくものにつきるような気がする!
(レン、遅いなぁ…)
待ち合わせ時間から10分ばかし経ってしまっている。待ち合わせ場所が間違ってないかと何回も確認するけれど、この場所で合ってる筈。周りにいた人達も、自分と同じように誰かを待っていたけれど、皆、無事に会えたのか大半が居なくなってしまった。ただ、時間だけがすぎていく。
ふぅとため息をつく。何度目のため息だろう?
ワンピースを小さく、きゅっと握る。
久しぶりのデートだから、めいいっぱいオシャレをしてきたのに。レンに可愛いって言って貰いたくて、頑張ってオシャレをしたのに。
「リンッ…!」
誰かが自分の名前を呼んだ。誰かなんて、そんなのとっくに知っている。…その人物をずっと、待ち焦がれたいのだから。
聞こえてきた方向に向くと、息を切らして走ってくるレンが見える。やっと、会えて、思わず涙が出そうになってしまうけど、堪える。会えて嬉しいなんて、そんなの絶対にレンの前で言ってあげないんだから!
(だって、言ったら、言ったらで恥ずかしすぎるし…)
「ゴメン、遅れて」
「おっそいっ!待ち合わせ場所に何分遅れたと思ってるのよっ!」
「だから、ゴメンって言ってるだろ!」
「むー…」
会って、早々に口喧嘩。こんなことする為に今日はわざわざ言えじゃない場所で待ち合わせしたんじゃないのに。大きな声を2人してあげてる所為か周りの人からの視線を買っている。
レンは切らしていた息を整えると、まじまじと自身の恰好を見つめている。もしかして、今日の恰好に気付いてくれたのだろうか?
「何…、レン?」
「今日…ちょっと、服装違うよな…?」
「ちょっとじゃないでしょ!誰の為に、こんなにめかし込んで…」
途中まで言って気付く。つい、勢いで本音を言ってしまった。一気に羞恥がこみ上げてくる。レンの事だから絶対、笑い飛ばすだろう。恥ずかしくて堪らないけれど、…一応、気付いてくれた。服装って言うのが気がかりだけど!(髪型とか、靴とかまで見て欲しかったのに!)
視線をずらして、レンと目を合わせないようにしているけれど、中々笑い声が聞こえてこない。
レンの顔を見れば、レンも頬が赤くなっている。
「俺も、今日は服装変えたりとか、髪型にも気を遣ったんだけど」
よく見れば、いつも着ないような服を着て、髪の毛は整えてある。いつもの“家”では見られない様な姿。
2人して同じことをしている。相手の為に、いつもより恰好を着飾っている。レンも今日を楽しみにしてくれていたと考えると嬉しくて、思わずはにかんでしまった。
「レン、いつもより恰好いいよ」
「リンも似合ってる」
お互い、見えて(まみえて)、笑いあった。
笑いながら、レンが手を差し出すと、手をとり、絡み合わせた。
「レンー、遅れた罰として、こだわりたまごのとろけるプリンが買ってー!」
「仕方ないなぁ…じゃあ、早く行くよ」
手を繋ぎながら、一緒に走り出す。いつの間にかレンのペースだ。先ほどまで、会話の主導権は自分だったのに。いつも、何をする時も自分が主導権を持っていたのに。
でも。
(たまには、いっか!)
今日のレンが恰好いいから、特別に許してあげよ!
デートの心得
(ねぇねぇ、これ、普段のサイズの2倍だよ!)
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