「ローデリヒさんっ!」
たまたま通りかかったローデリヒに勢いよく走っていく。おい、さっきまで持っていたフライパンは何処にしまった…なんて、口で紡ぐ。声に出したらどうなるかなんて分かっているからだ。
嗚呼、全くもってイライラする。ローデリヒの前だけに見せるあの笑顔。自分の前には絶対に見せない。ローデリヒの顔は見えないが、アイツの顔は良く見える。
そんな表情するな。そんな…恋をしている顔なんて。
(まぁ、アイツはローデリヒが好きだから仕方ねぇけど…)
昔から知っている。幼い頃から知っていた。…よく喧嘩をしたり、時には味方となって共に戦ったりしていた。
だが、時というのはあっという間にすぎていくもので。
自分がアイツに恋をしていると自覚した時には、もう届かなくなってしまっていた。立派に女として、成長していて、昔の面影が見当たらない。内面は昔から変わらないって言うのに。
いつの間にか、アイツは女としての甘美を持ち合わせていた。
「ギルベルト?アンタ大丈夫?」
呆然と立ち尽くしていたのか、いつの間にかアイツが目の前にいる。隣にはローデリヒが居るが。
「いきなり、黙るからどうかしたのかと思ったじゃない」
稀に見る心配そうな面持ちで、自身を見つめている。
(アイツが俺を心配している…!?)
エイプリルフールではないかと疑う。思わず頬をつねる。が、案の定、痛い。
自身の不可解な行動が不気味かと思ったのか、心配そうな面持ちから一変、変なものを見る表情へと変わってしまった。直ぐに自身から離れて、ローデリヒの元へと向かう。
先ほどは遠くに居て、何を話しているか聞こえなかったが、今は近くに居る所為か何を話しているか聞こえる。自身と話すときより声のトーンが高くなってないか、アイツ?
「エリザベータ、今日はウチに来るんですか?」
「ロ、ローデリヒさんが良いって仰るなら行かせてもらいたいですけど…」
「別に、貴方が来るなら構わないですよ」
「本当ですか!?…ありがとうございます…えへへ」
えへへって誰だよ。アイツ、キャラ変わりすぎだっての。
たやすく笑顔を振り撒いて、本当に幸せそうな表情をしている。何だかんだで、アイツと居るときは俺も楽しかったし、アイツも楽しそうだったから、こんな関係も良いかと思っていたが。結局の所、アイツが1番幸せだと感じる時は、ローデリヒの前に居るときなのかと悟ってしまう。
(…俺様、優しすぎるから、去ってやるぜー)
涙目にもなりつつ、アイツ等に背を向ける。どうせ、アイツ等の事だから、自身が居なくなって気付きはしないだろうが。
(今日は確か、ヴェスト居ねぇんだよなー…、1人でビールでも飲むか)
自分の家、目指して歩き始めると、後ろからアイツが自分を呼ぶ声が聞こえた。
「ギルベルトーッ!アンタ、この後暇ー?」
振り向けば、アイツが自身に手を振りながら、珍しく笑った顔を向けている。
しかも、おまけに、暇って訊いてきたって事はまさかのお誘いか?思わず、動揺しすぎで、言葉が言葉として成立しない。
「はぁ…?…べべべ別に暇といっちゃあ、暇だが、そこまで暇じゃないって言うか、」
「この後、オーストリアさんの家で夕飯作るんだけど、アンタもどう?」
「お前がどーしても言うなら、いいい行ってやるけど」
「別にそこまでして、来てもらいたくないんだけど…」
呆れ顔をしている。嗚呼、折角、誘ってもらったのにこのままだと、破棄されてしまう。こんなチャンスはもう2度とこないかもしれない。アイツが自分を夕食に誘うなんて初めての事だし。(ローデリヒが居る事は抜きとして)
「いい行きます、行かせて下さい!」
「そ?なら、着いて来てね、私はローデリヒさんと先行ってるから」
用件だけ伝えると、あっさりローデリヒの元へと走っていってしまう。…昔と違う走り方だ。男みたいな走り方が今では、女々しくなっている。
好きなアイツと夕食を食べれるのは嬉しいが、アイツは好きな奴と2人きりで食べる予定だったのに、何故、自分を誘ったのだろうか。…考えれば、考えるほど、分からなくなってくる。
(ま、良いか…)
「おーい、エリザー、ちょっと待てよー!」
永遠に届かない
(気持ちを殺すのは、何時になるのか)
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