僕らは生まれた時から双子だったんだ。生まれた時から、1番最初に会った人で、お互いが1番大事な人。だからいつでも何処でも一緒の相手なんだ。ずっとそうだと思っていた。
「ねーねー、レーンー」
「…何、…リン」
「あのね、あのね!ミクちゃんに教わりながらクッキーを作ったの!」
「だから、食べろって?」
「うん!」
リンは目の前でティッシュに包まれたクッキーを差し出す。見た目は美味しそうなのだけれど、ミク姉とリンで作ったと言うのだから味が少し(否かなり)心配だ。おそるおそる手を伸ばし、外見が美味しそうな奴を手に採り、口に入れる。味は思ってたよりも不味くはなく、普通の美味しさだと思う(若干粉っぽいけれど)。口の中でクッキーが消えると前に居るリンは期待をする目で此方を見ている。自身はリンよりも少し大きいので、リンが自身を見る時は見上げる形となるのだけど。
(無意識に上目遣いすんなよ…)
動悸する心臓をなんとか抑えてリンに応える。
「不味くはないけど、粉っぽいと思うよ、…」
「えっ!?粉っぽかった…!?」
多少の驚きで目を見開いている。そして、しょんぼりとした顔でティッシュに包まれたクッキーを弱々しく握る。口を真一文字に閉じて、目線を下に落とす。瞳を見れば、今にも大粒の涙が零れ落ちて来そうだ。ああ、もうこんな事で泣くな…!!
「別に食べれない訳じゃないんだから、リン、安心しなよ」
「…うん…そ、うだね!!じゃあ、ありがとね、レン!」
手を振りながらパタパタとエプロン姿のまま、部屋から出ていく。今日は家族全員が家に居る日。あのクッキーをメイコ姉ちゃんに、カイト兄、ミク姉ちゃんルカ……にあげるのか。しかも今日は運が良いのか悪いのかがくぽまで居る。皆に皆に今みたいにニコニコと笑いながら配るのだろうか。
胸がチクリと痛む。今まで、こういう事は沢山あった筈なのに。何故だろう。どうしてだろう。
今更ながら"寂しい"と感じてしまった。
リンが他の人にもあげる。只それだけの事なのに。とてもじゃないけれど、絶えられない。気付けば、読んでいた漫画を放り出してリンの後を追った。早く、早く行かなければ、皆の口にリンのクッキーが入ってしまう前に。
「リンッ……!!」
「レン…?」
リンはカイトの部屋で作ったクッキーを勧めていた。見る限りだと、どうやらまだ、食べていない。カイト自身、腹がいっぱいだったようで食べるのを躊躇っている。確認したのと同時にリンに向かって叫んだ。
「それ、全部、俺にちょうだい…!!」
「え…でも、レン…さっき食べたよね…?」
きょとんとリンの頭の上にハテナマークがついている。イマイチ、会話が噛み合っていない気がする。鈍感なリンの事だから、自身の科白の真意には気付いていないのだろう。
「良いから、全部、食べたいんだっ!!」
「レンもそう言ってる事だし、今回は、僕は遠慮しておくよ、ね、リン?」
「う、うん…分かったよ、カイ兄」
渋々と言ったように、リンはティッシュで包まれているクッキーを差し出した。受け取った時にはどうしようもない安堵に包まれた。相変わらず、リンは納得いかないような顔をしていたけれど、それでも何とか阻止出来たから良かった。
「もー、レンったら行きなり何であんな事言ったのよー!」
「別にいーだろー…」
リンから受け取ったクッキーを食しつつ二人で部屋に居る。リンはリンで、クッションを抱き締めて頬を膨らませて、クッキーを食べる自身を見つめる。まだ、怒っているのかと、口からではなく内でため息つく。
(俺だって、いきなりだったんだからさ、)
昨日までリンの事、微塵も思ってなかったのに。リンが誰と居ようが、誰かの為に何かを作ろうが全く何にも思わなかったのに。いったい自分はどうしてしまったんだろう?…こんなにもリンの事を考えているなんて。
ふと、ある予想が脳裏を駆け抜ける。が、忙しなく首を横に振る。ソレはありえない、筈だ。相手はリンだ。自身の双子の姉であって、クラスメイトの女の子でもなければ、近所に住む人でもなんでもない。それにプラスして、今まで1回も胸が動悸なんてしたことがないじゃないか。先ほど、リンに動悸がしたのはきっと、気のせいだ。気のせいに決まっている。
「もう本当どうしたの?何処かエラーでも起こした?」
いつの間にかレンの直ぐ側によっており、心配そな面持ちでレンの顔を凝視している。刹那、コツンと額を自身の額へと当てていた。うーん…熱くはないようだけど…なんてリンは軽々言って見せるけど、直ぐにリンの科白は右から左へと消え去ってしまった。
リンの顔が千秋。今すぐにでも、唇と唇が触れ合ってしまいそうだ。そんな事実に対して、頬が熱くなる。堪えられなくなり、体を大きく退けた。
「レン…?」
「リン、何してんだよっ!?」
「何って、レンがエラーを起こして熱くなってるかどうか診ただけだよ?」
リンからしたら、“診た”だけかもしれない。でも、自身は“だけ”では済まない。何故って、こんなにも心臓が大きく鼓動しているから。
…心臓が大きく鼓動している?
誰のがだ?自身のが?自身の心臓がリンに対して大きく鼓動している。今まで、こんな事起こらなかったのに。否、それは嘘だ。今まで、無自覚に鼓動した事は何回かあった筈だ。先ほどのように。
「レーンー?」
鳴り止まる事のない鼓動。頬が熱い、コレはエラー?
否、エラーではない。コレはきっと…リンに対して、もってはいけない感情。
自身の中で何かが芽生えた。
落ちた瞬間
(きっと、これは、許されないような)
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