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こばなし
ふーと、口から息を吐くと、白い塊となって表れた。シンとした家。灯りをともしていない部屋。自身の隣にある白い箱に包まれたプレゼントは渡せず、ポツンと置かれていた。この家に来る前にあった高揚感は消失し、今は虚無感しか、ない。
2月11日。特別な、日。
1年365日のうちで、1番大事な日。
…日本さんの誕生日。
本来ならば、今頃、後ろの部屋で、2人だけで、お誕生日を祝う、筈だった。日本さん好みのケーキを買ってきて、そして、自身が編んだマフラーを渡す、筈だった。
だが、どうにも予定が合わず、夕方からしか会えなくて、自身が日本さんの家にお邪魔する事になっていた。だけれど、何度チャイムを鳴らしても日本さんが出てくる事はなかった。時間を間違えたかなと思惟し、携帯を覗いてみたら―――。
なんとなくは予想していた。日本さんは、世界の方々からとても必要とされている人で、その分、誕生日となれば、皆がお祝いしたがる。日本さんは、アメリカさんやイギリスさん等が主催されるパーティーへと行ってしまった。メールの中で、何度も何度も謝っていた。台湾さんも時間がよければ、是非どうぞと言われたけれど、…丁重にお断りをした。きっと、自身が行けば、迷惑を掛けてしまいそうだし、何より、どろどろした醜い気持ちの表れである嫉妬をしてしまって、日本さんを困らせる。
(日本さんだけには、困らせたくないしなぁ……)
そして、今に至る。そのまま自分の家に戻ろうとしたけれど、中々、踵を返せなくて、合鍵を使って、日本さんの家へとお邪魔した。部屋へと入ると、座布団が2つ用意してあった。たった、それだけの事で、思わず、涙が出そうになった。日本さんは、ちゃんと私の事を待っていてくれたという事が、消沈していた自身を少しだけ元気にしてくれた。
障子を開けて、縁側へと出る。腰を下ろして、ぼんやりと星空を見上げる。冬の夜空は、空気が乾燥していて、とても綺麗に星が目に映される。
今頃、日本さんは世界の方々と、楽しく過ごせてるかな?
アメリカさんが主催だって言ってたから、とても派手で愉快なパーティーなんだろうな。
それをイギリスさんやドイツさんが、まぁまぁと言って宥めてるんだろうな。
想像してたら、くすっと笑ってしまった。そして、…耐え切れなくなって、涙が零れだしてきた。大切な日なのに、大事な日なのに、日本さんの誕生日なのに。日本さんの隣に居るのは、自分じゃなくて、他の人。
(私の隣には、日本さんが居ない)
日本さんは自分だけの物じゃないんだから、そんなのは当たり前でしょと、もう1人の自分が叱咤する。でも、出来る事なら今すぐにでも、日本さんの元へ行って、隣に居たい。抱きしめたい。独り占めにしたい。日本さんの香がするこの家に居ると、余計にその気持ちが募っていく。一度、開けてしまえば、留まる事を知らなく、どんどんと気持ちが溢れ出てくる。
ここに居ても、沈鬱にしかならない。自分の家に戻ろうとし、頬に伝った涙を拭った瞬間、玄関から縁側へと続く外の道に、思いがけない人物が現れた。
「に、…ほん…さん?」
「良かった…、ここに、いらっしゃった…んですね…」
何時も着ている和服とは違い、今日はスーツを着ている。そして、口からは白い塊が何個も出ている。…滅多に走らない人なのに、どうして、そんな急いでまでして、ここに居るのだろう?しかも、パーティーはどうしたのだろう?次々に、脳裏で疑問が浮かぶ。気付いたら、勝手に口が動いていた。
「あの…、日本さん…?どうして、…此処に?」
「パーティー…から、抜け出してきたんです…。皆さんの目を盗んで」
日本は息を整えつつ、笑顔で話す。それとは対照に、台湾の表情は曇りがかった。心臓が大きく鼓動を立てる。思わず、手で口を覆う。
「で、でも…折角、皆さんがパーティーを催して下さってるのに…」
内心で、相反している気持ちが渦巻いている。帰ろうと思った出先に日本さんと遭遇して、会えた事は嬉しいけれど、パーティーを抜けてきてしまうなんて。日本さんが主役なのだから、居なくなってしまったら大変なんじゃ…。視線を左右に動かし、ブツブツと口先だけで、呟く。
日本は、そんな台湾の言葉に、眉間に皺を1本寄せた。
「…台湾さんは、私が戻ってきて欲しくなかったのですか?だったら、今すぐにでも、パーティーに戻りますが」
日本の科白に、台湾は覆っていた手を外し、ブンブンと首を横に振る。長い髪が左右に靡く。そして、か細い声を出す。
「戻ってきてくれて…、凄く嬉しいです、」
視線を合わして、話せば、日本さんは、穏やかな表情をした。でも、それは一瞬の事で、直ぐに心苦しいのに一変してしまった。そして、日本は胸の前に宙(う)いていた台湾の手を強く握る。
「今回は、本当に、…申し訳ありません。アメリカさん達が余りにも強引に誘ってくるものでして、」
「そんな気にしないで下さい…!私は…日本さんが、来てくれただけでも嬉しいです」
「そうですか…、なら良かった」
日本さんは、私の言葉を聞いて、安堵したみたいだ。日本さんの安堵した表情を見ると、こちらまで穏やかになってしまう。日本さんが来るまで、内心は醜悪でいっぱいだったというのに。日本さんが、隣に居るだけで、一気に消し去ってしまった。会いたくて、堪らなかった日本さんが今、隣に居る。目の前に居る。おまけに、手も握ってくれている。本当に、欣快で堪えない。
あの渡したくても渡せなかったプレゼントを渡すなら今がチャンスなんじゃと思い、ゆっくり手を外し、背を向け、縁側に置いてあったプレゼントを手に持つ。そして、日本の方へ振り返る。
「日本さん!これ、プレゼントですっ!」
「私…にですか…?」
「はい!だって、今日、日本さんの誕生日ですから」
ニッコリと満面の笑みで、日本さんに渡す。日本さんは、少し驚愕していたが、有難うございますと言いながら、プレゼントを受け取った。
「開けてみても、宜しいですか?」
「勿論です!!」
日本は、台湾から受け取ったプレゼントを開けて、中を覗き込む。すると、中には、白で統一されたマフラーがそこには、あった。日本が見たのを確認して、台湾は、箱からマフラーを取り出して、日本の首へと巻きつける。
「どうですか…?気に入りましたか…?」
「………」
日本さんが何も言わないので、首を傾けて表情を窺うと、柄にもなく日本さんは頬を真っ赤に染めていた。日本さんの思いがけない表情に自身まで、頬を染めてしまう。
「あの…日本さん……」
「…有難うございます、台湾さん。長年生きてますが、今まで1番嬉しいプレゼントかもしれません」
「え、あ、有難うございます」
日本さんの事だから、今まで、全てのプレゼントを合わせると、数え切れないくらいプレゼントを貰ったと思うけれど、その中の 1番かもしれないという事は、とても喜ばしい。日本さんに渡せて良かったと、心のそこから思える。
そして、大事な事を思い出す。プレゼントは渡したのは良いけれど、まだ大事な事を言っていない。それと、まだ、 …抱きついていない。少々恥ずかしいけれど、今日は日本さんの誕生日だからと言う理由をつけて、日本さんと呼んで、ぎゅっと強く抱きついた。
「お誕生日、おめでとうございます」
ひとりじゃなくてふたり title byFrequente
(来年も一緒にお祝いできると嬉しいです)