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こばなし
ブルッと身震いをして、目が覚めた。毛布をかけて、寝ている筈なのに、どうして寒いのだろうと思いながら、視線を窓側へと送ると、ベランダへと続くドアが開いていた。あれ?と思いつつ、隣を見ると、"彼"がいない。
ケープを羽織り、ベランダへと出ると、私の存在に気づいたのか、彼はゆっくりと振り向いた。
「あれ…起こしちゃった?ごめんね、ビアンカ」
「良いのよ、気にしないで」
柔らかに微笑む彼は、どこか落ち着きがないように思える。
(夫婦なんだから、何でも話してくれたって、構わないのに…)
彼は、いつも1人で抱え込む癖がある。昔からそうだった。結婚の時、石化された時、魔界に行く時と言い、何でも1人でやろうとしていた。決して、自分から誰かに頼ろうとしないのだ、この人は。
「全くもー…リュカ、また、何か1人で考えてるでしょ」
「え?」
「リュカが1人で、ボーっとしている時は、大抵何か悩んでいる時だもの」
「そ、そうだったっけ?」
彼は、凄く驚いたような表情をしている。天然だから、自分の癖に気づいていないみたい。
「そうよーっ!ほら、言ってみなさい!」
「う、うん…」
彼が、自身の瞳を見据える。彼の黒色の瞳で、じっと見つめられると、何年経った今でもドキッとしてしまう。もうそんなに若くないのに、それでも、ドキドキと少女の様に胸が高まる。
それを悟られないよう、必死に隠しながら、彼の手と自身の手を絡める。
「ほら…僕の人生、ずっと、何ていうかさ、忙しないと言おうか、」
「確かに。普通の人生じゃあ、ないわよね」
「それで、今、初めて、"普通の暮らし"が手に入って、怖いんだ」
「怖い?」
繋いでいる手がぎゅっと強くなる。
「この幸せが、幻想なんじゃないか、って」
視線をそらし、顔を俯かせる。長い髪が邪魔をして、表情が隠れてしまってる。
小さく怯えるその姿は、今まで見たことがない、彼の姿だった。そんな姿が居たたまれなくなり、優しく抱擁する。
「リュカは今までが辛かったもんね…」
「………うん」
「でも、大丈夫!だって、リュカには、リュカを愛してくれる人がいるもの!」
「…え?」
顔を上げ、また視線を合わさる。
「私に、テンとかソラ、それに城の皆がリュカの事が好きだもの。そういう人たちが居る限り、幻想なんかじゃないわ」
「!…そうだね、」
ね?と言いながら、ウィンクすると、彼は驚いたような表情した。だが、直ぐにいつも通りの彼へと戻った。
「ビアンカ、愛してるよ」
「…私もよ」
2人して微笑(わら)いながら、ベランダを後にし、そして、そのまま床についてしまった。
明日も明後日も明々後日もずっと、幸せになるよう祈りながら―――。
君と共に過ごす時間
(言葉で表す事の出来ない幸せなんだ)