「ねぇ、ちょっと…コレは何なのよ」
見渡す限り、ピンクのリボンで包装されたプレゼントで埋め尽くされた自身の家の庭。何がどうなって、こうなったのか、全く分からない。
事の始まりは、朝、突然の携帯のバイ部で目が覚めた所からだった。メールだったら、後で返信すれば良いと思惟し、瞼は閉じられたままだったが、バイ部の長さから電話だと分かり、もぞもぞと手を動かして、携帯をとる。
― オーストラリアさんからしら、それともイタちゃん…?
瞬きをしながらコールボタンを押すと、聞こえてきたのは、朝一番で聞きたくない、あの声だった。
『ハンガリーかっ!?ちょっと、今、お前の家の前に居るんだけど、ドアを開けてくれ!』
「はぁ?アンタ、何言ってるの?」
『いいから、早く開けてくれ!』
プロイセンの言われるがままなのは、癪だが、電話越しの声が、切羽詰っていたものだからパジャマから適当に置いてあった服に袖を通し、化粧も程ほどして、階下へと下る。
先ほどから、ドンドンと玄関のドアが叩かれている。曇りガラスの所為か、ぼんやりとしか見えないけれど、きっと、叩いている人物はプロイセンに違いない。自身の知人の中で、こんな失礼なことをするのはプロイセン以外に当てはまらない。
― 全く、折角の休日が台無しだわ、
ぶつくさと一人、愚痴を零しながら、玄関のドアを開ける。すると、そこには、満面の笑みを浮かべているプロイセンが居た。
「開けるのおせぇよ、ハンガリー!」
そう言うや否や、行き成り、抱きついてくる。科白と表情と行動が、全く一致しておらず、混乱状態に陥る。だが、脳裏で考えるよりも前に、体が反応していて、気付いたら、隠し持っていたフライパンでプロイセンを張り倒していた。
「いってーな!!何すんだよ!」
「それは、こっちの科白よ!一体、何しにきたのよ、アンタ」
目を吊り上げて、睨んでみるが全く効果はなく、寧ろ睨んだお陰か何なのか、プロイセンの口角が上がり、目も細くなった。プロイセンは、叩かれた場所を手で抑えながら、ハンガリーに背を向けた。
「お前にコレを渡すためだっつーの、ケセセセ」
「は?」
プロイセンの背中から覗き込めば、大中小、様々な大きさのプレゼントが庭の上に置かれていた。包装も白色から始まり、ピンク、黄色、水色など、多種多様な紙で包まれている。ざっと、見ただけで、プレゼントの数は10個以上ある。今日は自身の誕生日や何かしらの記念日ではなかったような…。
そして、冒頭へと戻る。
「ねぇ、ちょっと、…コレは何なのよ」
「何って、今日はホワイトデーだろっ!」
「…ホワイトデー?」
聞いた事もない単語が、プロイセンから発せられて、頭上に疑問符が浮かぶ。
「日本が教えてくれたんだけどよ、」
プロイセンの話を聞く限りだと、日本ではバレンタインデーに女の子が意中の人物にチョコを渡し、ホワイトデーに男の子がお返しとして、キャンディーやマシュマロ、ホワイトチョコを渡すらしい。それに倣って、プロイセンは今回、こんな行動を起こしたらしい。
確かに、自身は一ヶ月前に義理として、チョコを渡したが、これは、所謂…倍返しというのだろうか?あからさまに、渡したチョコと貰うキャンディやらの比率がおかしい。
「にしても、アンタ…、こんなに用意しなくても良かったんじゃないの?」
「何だよ、多い方が、嬉しいだろー?」
「でも、モノには限度ってものが…」
芝生の上においてある手ごろなサイズのプレゼントを手中におさめる。よく見ると、包装は全然、綺麗じゃなく、とても雑だった。折り目も適当だったし、リボンも上手く巻かれていない。
― まさか、…でも、プロイセンなら…
「仕方ねーだろ!お前を喜ばしかったんだからよ!」
ケセセセと笑いながら、空を仰いだプロイセンはとてもご満悦な表情をしていた。いつもはうざったいと思うプロイセンの行動も今回ばかしは、喜んでしまう。自身の為に、ここまでやってくれるなんて、誰が想像できるのだろう。ハンガリーはクスクスと笑い、背伸びをし、プロイセンに耳打ちをした。
「来年のバレンタインは、期待しておきなさいよ」
想いは数に比例して
(まずはアピールから)
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