「ねー用意してんでしょー?」
「あーもう、煩いな!用意してないって、さっきから言ってるだろ!?」
「じゃあ、何で、昨日、行き成りでかけたんですかー?」
ベッドの上でかれこれ、20分ばかしはこの攻防戦を続けている。この喧嘩は、リンのある一言がきっかけだった。
「今日って、ホワイトデーだねー」
リンは、バレンタインデーにチョコレートをレンに渡した。勿論、意中の人物とし、意識してレンへの手作りチョコを渡したのだけど、レンは全くそのことに気付いていなかった。理由は、恐らく、渡したタイミングがタイミングだったからだと、後々になって、考えるみると分かり、リンは自己嫌悪に陥った。その時、丁度、ミクオやカイトやがくぽが丁度、居合わせていたので、一斉にチョコを渡したのだ。勿論、中身はレンだけ、特別扱いで、違うのだけど、外装は全く一緒だったから、自身のチョコは義理だと思われたのだろう。バレンタイン以降もレンの態度は変わらず、素っ気ない態度だったから。
― だから…、まぁ…今になっても、普通に接せるのだけれど、
いつまでもグダグダ引きずるのは、性ではないから、それはそれ、これはこれで、過去を引きずる事を辞めた。次、どこかでチャンスがあったら、その時にまた告白をすればいい。そう思惟し、リンはいつも通りの態度でレンに接していた。
そして、3月14日のホワイトデー。リンはバレンタインにチョコを渡したのだから、そのお返しとして、レンにホワイトデーのお返しをせがんできた。自分で言うのも、なんだけど、食い意地が張っているお陰で、お返しは絶対に貰いたい。ミクオやカイト、がくぽからはもう貰ったから後はレンだけなのだけど。
「もう!ないんだったら、バレンタインの時に渡したリンのチョコ返せーっ!」
「食っちゃったんだから、無理だっつの!」
「レンのあほんだらーっ!」
側にあった枕をレンの方へと投げて、そっぽを向く。先ほどから、ずっと攻防戦が続いたが、漸く決着がついた。リンが叫びながら枕を投げた所為で、レンは何も言ってこないで、静寂が2人の間に流れた。
そっぽを向けば、もしかしたら、レンが折れて、くれるかもしれない。そう思っての行動だったけれど、一向に渡してくれそうにない。
― 本当に、用意してくれないのかなぁ…、
レンの事だから、絶対、用意してくれてると思っていたけれど。折角、バレンタインの時に、たっぷりの愛情をこめて、作ったのに。レンだけは特別に作ったのに。レン以外の人からは貰ったのに。本音を言えば、レンからもらえれば、それだけで良かったのに。
じんわりと、目頭が熱くなるのを感じた。こんな事で、涙を流したくないから、急いで、流れないように指で、瞼を押さえる。
「おい、リン」
いつの間にか、レンはリンの背後へと来ていた。いつもなら、背後は誰か来たら直ぐにわかるのに今は、全く気付かなかった。瞳が赤くなっている事に気付かれないよう装いながら振り向く。すると、視界に、白い箱にピンクのリボンで包まれたソレ。
「バレンタインのお返し。やるから、機嫌直せよ」
「…レ、ン…、」
「じゃあ、俺、リビングに居るから」
もらえると思っていなかったので、感激の余り、言葉が出ない。欲しくて欲しくて、堪らなかったのに、実際に目の前にあると、何もいえなくなってしまう。レンが出て行くのを確認して、リボンを解き、白い箱を開ける。すると、中から出てきたのは、キャンディーと一つのメッセージカード。なんだろうと思いつつ、手に取り、表に返して読むと、急激に頬が熱くなった。
『Thanks! &I love you!』
「えええっ!?」
何処からどうみても、レンの手書きで書かれたメッセージ。予想だにしない展開に動揺が隠せない。真相を訊き出す為にリンは勢いよく部屋のドアを開けた。
とあるきっかけ
(告白のきっかけ作り)
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