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こばなし
いつ、生まれたのだろう。
ふと、思った。やる事がなくて、ぼーっと、窓の外を見ている時に。視線の先である窓の外は、雪がしんしんと降っている。
ずっと、ずっと、誕生日は1月1日だと思っていたけれど、そうではなかったらしい。1月1日は、育ての親である祖父がつけてくれたものだった。母である柚香が自身を産んだのは、あの光景からして春先だった。
じゃあ、自身が生まれたのは、いつ?そう、訊きたいのに、その相手はもうこの世にはいない。
「何、窓の外、見て黄昏てるんだよ」
「なつめ!?アンタ…、いつのまに…っ!?」
「何度もノックしてんのに返事がねーから、勝手に入った」
どうだ、と言わんばかりの口調に思わず、苦笑してしまった。
「勝手に入ったとか、それ、アンタ、不法侵入」
「何言ってんだよ、お前と俺の仲だろーが」
「ったくもー……」
ぶつくさと言いながらも順応しちゃっているのは、やっぱり自身と彼が"そういう仲"だからだろう。それに加えて、彼と付き合い始めて、5年目。いい加減に、彼の行動パターンには慣れて来た。
そんな彼は、部屋の中にあった椅子を勝手に持ってきて、隣に座った。そして、先ほどの自身のように、窓の外の雪を見た。
2人揃って、無言で、雪を見る。…静寂が2人を包む。
その静寂を破ったのは、棗だった。
「お前、ろくでもない事、考えてただろ」
「…ろくでもない事って?」
「顔見りゃ分かる。つか、お前が1人で居る時って、大抵くだらねー事で悩んでるときだろ」
「もう…棗には、全部お見通しや」
隣にいる彼の肩に頭を預ける。
この問題は、自身の問題だから、彼には悟られないようにしよう。そう思って、必死で隠していたのに、どうしても悟られてしまう。きっと、それは、彼の隣だと、安心してしまうから。
「ほら、今日、1月1日やろ…?それで、ウチの誕生日って、いつ何やろうなーって、」
「…くだらないな」
「くだらないくだらない連呼しなくても、えーやんか、もー…」
自身はそれなりに真剣に悩んでいたのに、"くだらない"の一言で一蹴されてしまった。相変わらず、彼氏でありながら態度が冷たいなと、新年早々思う。
肩から離れて、彼の瞳をじっと見つめる。すると、彼は、僅かに微笑して、自身の肩に腕を回した。
「俺は…お前が、側にいてくれれば、それでいい」
「…ホンマにそう思ってる?もしかしたら、ウチ、アンタより1つ年上かもしれないんよ?」
「年上とかでも別に良いだろ。お前はいちいち気にしすぎだ」
「何やそれ!!もう…!!」
ああもう、また彼は、今自身が1番欲しい言葉をくれた。もう、どうしようもなく嬉しくなって、彼の首に腕を回した。
好きになってごめん
(いつも迷惑かけてばかりだけど、…大好きやよ)