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VOCALOID*ミク→マスター

2010-04-07 00:59

本体(パソコン)のあちこちで聞こえるエラー音。これから自分がどうなるんだろう…なんて愚問だ。とても容易に想像出来る。ここは、もうゴミ箱なのかな?自分が何処に居るかも分からなくなってしまっている。
こうなる事はもうずっと前から分かってたのかも知れない。初めて、“声”にノイズが入った時から。


「マぁ、スター…うたいたい、よぉ…」


今ではこんなにもノイズが入り混じり、綺麗に出ていた頃の面影を全くと言うくらいに無くしている。
あんなにも歌う事が好きだったのに。歌うために作られたボーカロイド。歌う事は使命であると同時に生きることでもあった。それでも自身は歌う事がとても好きだった。マスターが自身と本体と繋ぎ、初めて、喋ったとき、私は生まれたのだ。そして、この人の為に歌うと誓った。
初めこそ、マスターの調教不足と自身の力不足のお陰で、声が声としてなっていなかったけれど、二人三脚となり励ましあいながら、必死で頑張った。初めて曲を作って、動画を上げた時は、何とも言えない嬉しさにかられた。コメントが凄く荒れてたけれど、その反省点を生かし、次の曲を上げたら、まさかのランキングに入っていて、2人で一緒に喜びを分かち合った。
全部が全部、“データ”として残っている。データとして残っているマスターの笑った顔が思い出すと少し安心する。もしかしたら、まだ大丈夫かもしれないって。都合の良い妄想だけれど、奇跡が起こるなら信じていたい。
マスターと、もっと、一緒にいたい。


「うた、…いた、い、よぉ…」


例えこんな声だとしても、また貴方に最高の声と歌を届けたい。
でも、それはもう叶わない願い。自分のことは自分が1番良く分かっている。だけど、もうこの先、どんなに修理しても、どんなに…奇跡を願っても元の声には戻らない。きっと、今日が私が私である最後の日。
半分ボロボロとなっている手を喉元へと当てて最後の力を振り絞って、歌う。歌う事は方が蝕むような痛みが自分を襲うが、今更、構っていられない。
マスターに伝えたい思いがあるから。今日が最後だから、今までの気持ちを“歌”として表したい。普通に出したのなら声が出ないから、半ばきつめるように、叫ぶように歌う。…自分とマスターが初めて作った歌を。2人で一緒に練りに練った歌詞を一つ、一つ間違えないように。


「……ぁ……ぁ、ぃ…」
「ミク!?何してんだ!?」
「ま、スぅ…ター、…と、つくっ、…た、はじめ…て、の」
「それは分かってる!でも、今は歌うな!俺が今、直してやっから!」


マスターはまた、キーボードや本体を調べて、あちこち直そうと必死になっている。…もう何時間もその状態でいる。私の所為でマスターをずっとパソコンの前に拘束させてしまってる。今日は大学で講義があった筈なのに…。そう思うといたたまれない。

(私、…何時の間に、悪い子になってしまったんだろう)

マスターに辛く苦しそうな顔を前にして、何も思わない筈がない。マスターの幸せそうな顔、嬉しそうな顔、怒った時の顔、悲しそうな時の顔。
でも、もう、記憶を思い出すたびに、どんどんと記憶(データ)が剥がれ落ちていく。自身から記憶が抜けていく。抜けないでと思っても、相対して抜ける。

忘れたくないのに、忘れたくないのに。

ここまで、壊れてしまった自身を直すためには、もう残る方法が…最終手段(アンインストール)のみ。でも、マスターはとても優しいから絶対にやらない。アンインストールししまう事は簡単な事だけど、 “今”の私としての存在は終わる。マスターと築き上げてきた記憶(データ)が全て無くなる。再びインストールしてしまえば良い事だけど、そこには“今の私”はいない。マスターとの思い出を一切持っていない、“新しい私”がいる。実質、死んで生まれ変わるようなもの。

マスターは優しすぎる。こんな姿となってしまった機械の私にここまでしてくれた。


緊急停止装置作動

響き渡るエラー音。


(ああ、もう本当に、消えてしまうんだなぁ…)

でも、消える前に私に出来ることを。
再びきつめるように叫びながら歌う。歌を犠牲として、全てを貴方へ伝えられるならば、最初で最後の別れの歌を。


「ミクッ!っくそ、どうして作動しちまうんだよ…」
「ま、ス…ター…」

目線を下へとおろせば、もう足の大半が消えている。後、此処に居られるもどれくらいかな。
…でも、その前に、最後に、伝えなきゃ、マスターに。


「あ…り、が…とぅ……サヨ、な、ラ…」


自身はオリジナル(人間)には叶わない存在(歌声)だったけど、マスターと一緒に居られて幸せだった。
マスターと出会えてよかった。

バイバイ、マスt―――。


深刻なエラーが発生しました。


DEAD END
(ずっと、大好きです。ありがとう)
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