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こばなし
確か今日は年に一度にやってくるハロウィンだ。行事好きの学園でも、やはりそれ相応のイベントがある。自身は行事などに積極的に参加する性格(タチ)では無いので、今日は大人しく部屋に居るつもりだった。だった筈だ。
しかし、現実はそう甘くなかった。
中等部の生徒も高等部の生徒も、初等部に戻ったかの様にお菓子に群がっていく所為か、自身の元にも来訪してきた(勿論、来訪者には睥睨したが)。蜜柑を筆頭にクラスメイトも先輩や後輩の元にお菓子を貰いに行っている。そこまでして、菓子が欲しいのかと、思わず呆れ返ってしまう。
部屋に残っていると絶え間なく、人々が来訪してくるので適当に学園内を散策する。ハロウィンの影響か生徒達はこぞって仮装をしている。私服で学園内を歩いていると逆に目立つくらいに。…つくづく、呆れ返る。馬鹿馬鹿しくて仕方ない。
適当なベンチを見つけ、着座する。学園の外れであるお陰で人通りが少ない。安堵のため息を吐いたのも束の間、後ろからドスンと鈍い音がした。振り返ってみれば、そこには魔女らしき仮装をした蜜柑がしりもちをついていた。
「アタタタ…」
「お前、何してんだよ」
「ちょっと、木の上に座ってたら、落ちてしもうて…」
ベンチから立ち上がり、手を差し出してやる。蜜柑は、はにかみながら手を出した。蜜柑は立ち上がると、腰を打ったのか何度も摩っている。
彼女の恰好はいかにも“魔女”っぽかった。黒いマントに黒い三角帽子。オレンジと黒を基調として彼女は彩られている。普段、こういった恰好はしない所為もあると思うが、似合っていると深くにも思ってしまった。
蜜柑は痛みが引いたのか、手を摩るのを辞めると、一歩二歩と近づいてきた。お互いそんなに離れていない所為か直ぐに2人の距離は縮み、今にも身体と身体が触れ合う様な距離に居る。
(どういう風の吹き回しだ…?)
先ほどのはにかんだ笑顔とは一風変わって、今は妖艶な笑みを浮かべている。
「なつめ、」
「…何だよ」
彼女の口から発せられる言葉も何処となく甘美を持ち合わせている。人差し指を立てながら蜜柑の手段々と近づいて来て、丁度自身の唇に触れるか触れないで止まった。
今までに見たことが無い蜜柑の行動に、動悸がする。悟られないように、動揺している事を隠す。
すると、目の前の蜜柑の口が開いた。
「Trick or treat?」
か細い声で、聞こえるか聞こえないか位の大きさで彼女は呟いた。
彼女に応えようとするが、何かが喉につっかえて出てこない。僅かに口を開くと、蜜柑は指を離し首に手を回した。目の前に蜜柑の顔があり、少し顔を傾けただけで唇と唇が触れ合ってしまいそうだ。
「応えないんやら悪戯やね」
そう言うなり、顔を一気に近づけキスをしてきた。蜜柑からのキスは何回かあるが、してくるのは大半が頬で唇にしたとしても、一瞬の間にキスが終わる。だが、一瞬では離れず、且つ、深く深く角度を変えながらしてくる。
閉じていた目を開ければ、蜜柑は目を閉じていたが、頬が赤くなってはいない。今、自分がしている行為を
恥ずかしいと思っていないのか。
いつもの蜜柑とは違うと感じつつも、再び目を閉じ、彼女に手を回し、“応えた”。
Trick and trick.
(さぁ次は自分の番だ)