「調べの君」に会えて、あの音をまた聞けて嬉しかった。
あの美しい音色を。もう一度聞けるなんて。
近くで聴いてみれば涙が出てきて。感動して。
貴方に出会えて、本当に良かった。
逢う為に帝都、東京に、親の反対を押し切って出てこれて良かった。
ブローチも戴いた。
無色透明だったのが段々と胡桃色に染まり、不思議で堪らなかったけれど、嬉しかった。
あの「調べの君」から戴いた物だから。
本当に天へ感謝した。あの時ほど、感謝した事は無かった。
逢って2人でお話すれば、年下と言う事が分かって、笑ったりと表情が見えたり、人へと変わっていった。
もう1度間近で、「調べの君」の音色を聞くだけで、世界が広がった。
つい先日まではとても、遠く名も知らなかった人なのに。
今ではこんなにも貴方と私の距離が近い。
偶然、貴方と初めて帝都に来た時に会えて。
偶然、貴方がこの音楽学校に居て。
偶然、貴方とまた出逢えて。
偶然、貴方に恋に落ちて。
全てが偶然で、運命だとしたら、私はその全ての偶然と運命に感謝を出来る。
だから、あの時のも偶然で運命。これが私の“するべき事”なんだった思う。
「調べの君」に対して―――。
調べの君が「聖女の涙」を欲しているというのなら。
最初は恐かった。思わず逃げ出した。
優しいあの「調べの君」じゃなかったから。
剣を持っていて、突き放された感覚。
それでも、小さく震えながら「使命」の事について話された「調べの君」に何かしてあげじゃなくちゃと思えた。
例えこの命が滅んでしまったとしても。
これが、本来の「調べの君」。この事を知った私はきっと幸運な人。
だって、萩さんや神田さんはきっと知らないでしょう。
私の命が貴方を救えるのならば、容易く差し上げましょう。
世界で1番愛しい「調べの君」に。
最後の夜はとても、幸せで満ち溢れていた。
あなた様の隣で
(私は天に召されます)
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